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編集長・白瀬ヒカリが、難しいAIニュースをほどいて解説します。
元OpenAI CTOの会社が第2世代モデルを発表
Thinking Machines Labは2026年11月5日、第2世代モデル「Inkling 2 Small」を発表しました。同社はOpenAIの元CTO、ミラ・ムラティ氏が率いるスタートアップです。5940億パラメータのMixture-of-Experts(MoE)モデルで、トークンごとに実際に働くのは170億パラメータです。画像入力に対応し、思考の深さを調整できる「可変エフォート」も備えています。
現時点では、同社のプラットフォーム「Tinker」経由でのみ利用でき、モデルの重み(ウェイト)は非公開です。ただし同社は、外部の安全性テストとレッドチーミングが終わり次第、来週にもApache 2.0ライセンスで重みを全面公開する意向を示しています。Tinker Playgroundではすでに試すことができ、ファインチューニングとサンプリングも利用可能です。
「オープンウェイト」は、モデルの重みをダウンロードして自分の環境で動かせる公開形態です。学習データや学習コードまで公開する「オープンソース」とは異なりますが、開発者が自由に試して改良できる点で、AI開発の現場には大きな意味があります。米国のオープンウェイトモデルの選択肢はまだ少なく、今回の発表はその空白を埋めるものとして注目されています。
数字で見る性能:AI指数は31に跳ね上がった
性能の目安として、同社はArtificial Analysisの「Intelligence Index」で31点を記録したと発表しました。第1世代のInklingが12点、軽量版のInkling-Smallが13点だったのに対し、2倍以上の伸びです。指数はエージェント型コーディングや視覚、知識労働、推論の総合力を測るもので、同社は「前世代からの大きな飛躍」と位置づけています。
個別のベンチマークも公開されています。ソフトウェア開発の実力を測る「SWE-bench Pro v2(Hard)」では86.3%、実務的なコーディング課題の「DeepSWE v1.1」では72.1%、長文のコーディング課題「FrontierCode v2.0」では25.4%でした。視覚系では「MMMU Pro」で81.6%、「PerceptionBench」で64.7%を記録しています。いずれも同社の発表値で、他社のモデルと比較できる形で公開されています。
ウェブ開発の腕前を競う「Code Arena(WebDev)」では1,653点を記録しました。重みが公開されれば、米国のオープンモデルでは1位、世界のオープンモデルでも4位、全体では20位に相当するとされています。ただしこれは、重み公開を前提とした見立てであり、現時点の順位ではありません。

上のグラフは、Artificial Analysis Intelligence IndexにおけるInklingシリーズ3モデルのスコアです。Inkling 2 Smallの31点は、初代の12点、Inkling-Smallの13点から大きく伸びています。スコアはArtificial Analysisによるもので、同社の発表にもとづきます。
「AIがAIを育てる」実演:4.5時間で予測モデルを自作
今回の発表で特に目を引くのが、モデルが自律的に行った「自動研究」の実演です。Inkling 2 Smallは、時系列予測の課題を与えられると、評価方法を自分で設計し、学習データと手法を試行錯誤しながら、別のモデル(Qwen3.5-4B)を自律的に学習させました。作業時間は4.5時間、Tinkerの利用料は426ドルで、学習後のモデルは予測スコアが2倍以上に改善したといいます。
また、カーネル最適化のベンチマーク「PMPP-Hard」では、69課題のうち平均54.25課題を解き、GPT-6 Astra(63課題)やClaude Opus 5.5(60課題)には及ばないものの、トップクラスのグループに入りました。こうした「長時間の自律作業」の性能は、単なるベンチマークの点数以上に、実務での使い勝手を示す指標として注目されています。
視覚の能力も特徴的です。2億9,200万パラメータの視覚エンコーダを備え、画像から情報を読み取って、ウェブサイトやゲーム、3Dデザインを繰り返し作り直すことができます。発表では、Three.jsで都市シミュレーターを一から作ったり、手描きの風景画から3Dモデルを作ったりする例が紹介されました。ワインの試飲会では、写真だけで3種のワインを20回中19回正しく言い当てたという、やや遊び心のある実験結果も公開されています。
料金と利用条件:まずTinkerで、重みは来週以降
料金は、入力100万トークンあたり0.30ドル、出力100万トークンあたり1.00ドルです。第1世代のInkling(出力4.05ドル)と比べると、出力単価は約75%下がっています。性能が上がりながら単価が下がるのは、MoE構造の効率化と、学習プロセスの改善によるものとみられます。
利用の流れは次のとおりです。現時点ではTinker Playgroundで試すことができ、API経由の推論とファインチューニングもTinker上で利用できます。重みの公開は、外部の安全性テストとレッドチーミングの完了が条件で、「来週」を意図しているとされています。ただし、これは同社の意向であり、確約された日付ではありません。テストの結果次第で遅れる可能性もあります。
重みが公開されれば、開発者は自分のサーバーでモデルを動かしたり、用途に合わせて追加学習したりできるようになります。同社は7月に公開した方針「オープンウェイトへの安全な道筋」に沿って、段階的に公開を進めるとしています。第1世代のInklingは9750億パラメータ(稼働410億)、Inkling-Smallは2760億パラメータ(稼働120億)で、いずれも重みが公開済みです。今回の「2 Small」は、その第2世代の第一弾にあたります。
背景:オープンウェイトをめぐる競争
大規模言語モデルの世界では、性能の高いモデルはクローズド(非公開)であることが多く、オープンウェイトの高性能モデルは限られています。中国のDeepSeekやGLM、Kimiなどがオープンウェイトで存在感を示す一方、米国のオープンウェイトモデルは数が少なく、今回のInkling 2 Smallは「米国のオープンウェイトでは最上位クラス」をうたっています。
Thinking Machines Labは、2025年5月に設立されたばかりのスタートアップですが、ムラティ氏の経歴もあって業界の注目を集めてきました。第1世代のInklingは2026年7月に発表され、今回の第2世代はわずか4か月後の登場です。開発のペースの速さ自体も、この会社の特徴として語られています。
ただし、ベンチマークの数字はあくまで発表値であり、第三者による検証はこれからです。また、重みの公開は「来週を意図する」という段階で、まだ実現していません。「オープンウェイトになる」ことが確定した話として受け取るのは、少し早い段階です。
ヒカリの解説:何が変わるのか
今回の発表で一番大事なのは、5940億という大きさではなく、「重みを公開する」という方針と、そのタイミングです。オープンウェイトのモデルが増えると、開発者はAPIの利用料を払い続けるのではなく、自分の環境でモデルを動かし、用途に合わせて育てられるようになります。とくに日本の中小企業や個人開発者にとっては、「高性能なモデルを手元で使える」ことの意味は大きいです。
料金の安さも見逃せません。出力単価が前世代の4分の1になったことで、エージェント型の開発(AIに長時間働かせる使い方)のコストが下がります。AIにコードを書かせたり、調査をさせたりする使い方が広がるほど、「いくらで、どれだけ働かせられるか」が競争の中心になります。
一方で、注意点もあります。まず、重みの公開はまだ「予定」です。来週の発表を待たずに「オープンウェイトの新モデルが登場」と言い切るのは正確ではありません。次に、ベンチマークの数字は同社の発表値です。とくに「米国オープンウェイト1位」という評価は、重み公開後の想定順位であり、現時点の確定順位ではありません。数字の伸びは確かに大きいですが、実務での使い勝手は、Tinkerで実際に試した開発者の声を待って判断するのがよさそうです。


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